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原理原則に反するけれど正しいケース

 トレーニングの原則は常に基礎から特異へと徐々に移行させていくことです。これには非常に単純な理屈があります。長距離走を含む陸上競技の全てはスピードと持久力と言う二つの要素があります。


 ただ、100mや200mは距離が短すぎて持久力が実践的観点からは問題にならないだけです。ですが、実際にはたとえ100mでも後半失速しているので、厳密にはスピードと持久の両方が常に問題になります。


 そして、長距離走の場合はもろにスピードと持久の両方が問題になります。持久力が無ければ、最後までそのペースで走りきれないのは当然ですが、同時に速いペースに慣れておかないと前半から苦しい思いをすることになります。そして、前半から苦しい思いをするということは、当然最後まで持たないということです。


 また長距離走の場合は、何がスピードであるかも出場する種目によって変わってきます。例えば、マラソンをやるならハーフマラソンでもスピードと言えますし、10キロでもスピードということが出来ます。


 ただし、10キロや5キロを走るにもやはりスピードと持久の両方が必要です。5キロを専門とする人にとっては3000mや1500mでも充分にスピードですが、しかし1500mと3000mもスピードと持久の両方が無いと走り切れません。このように考えると、結局のところどこまでいってもスピードと持久の両方が必要なのです。


 そして、これまた単純な理屈として、今の自分よりも上のレベルに行こうと思えば、コンスタントにこなせる範囲でスピードと持久を組み合わせていく必要があります。これが基礎持久と基礎スピードという概念です。


 だから基本的には練習の大半は基礎持久と基礎スピードが必要となります。ただし、基礎持久と基礎スピードだけで良いのかというとそうではなく、やはり最後はレースに近い刺激を入れたほうが自分の能力は高くなります。


 で、基礎練習と実戦的な練習との関連性を考えるにあたって、基礎が出来ているから実戦ん的な練習が出来るのです。その逆は絶対にありえません。基礎が出来ていないのに、実戦的な練習は出来ないのです。


 例えば、非常に単純な思考を持つのであれば、42.195㎞を走るのであれば、マラソンのレースに出れば良いとか30キロまでをレースペースで走れば良いという話になります。これは必ずしも間違ってはいないですし、実際に一時的には走れるようになると思います。状態が上がるのが速いと言っても良いでしょう。


 ただし、長期にわたって力をつけていくのは難しいですし、時間もかかります。理由は単純で、今の自分の力を大きく上回るような刺激をかけることが出来ないからです。


 これはレベルが上がれば上がるほど大きな問題になります。


 私の経験から言っても、レベルが上がれば上がるほど、準備期間に時間がかかり、つまり基礎的な練習に時間がかかり、なかなかレースに近いような刺激は入れられないです。


 一方で、時間はかかるのですが、400m15本を200mでつなぐような基礎的なスピード練習をこなしていき、ある程度1000m2分50秒を切るペースに体を慣らしたところで、ハーフマラソンに特化したようなレースを入れていくと、1キロ3分ペースが遅く感じられるようになっていくので、出来なかったことが出来るようになっていきます。


 そうやって、本当に本当に仕上げていって出すのがピークを合わせていくレースの結果です。少なくとも私はそうです。なかなか行き当たりばったりの練習では結果が出せません。


 もしかすると、それが素質と言うやつなのかもしれません。とりあえず、何も考えずに負荷をかけていれば、どんどん速くなっていく選手もいます。でも、私はそうではありませんでしたし、そういった一見素質があるように思える選手もそのやり方でいつまでも通用する訳ではありません。


 そういう意味では、今まで本当に1000人以上のランナーさんを見てきて、素質があると感じたのは、日本人では4人だけです。そして、その4人の天才全員が私よりも上のレベルに到達した訳ではありません。自分には素質がないと思い込んでいる方も一定数いらっしゃるのですが、素質と言うのはあるようでないものだということを知っていただきたいなと思います(ゼロではありませんが)。


 話を戻すと以上のような理由から、練習の基本は基礎から特異性へと徐々に移行させていくことが基本であり、決して反対ではありません。ところが、レースが近づいてくると逆に基礎に戻すパターンも出てくるのです。


 先ずは下記のライオンズの選手の先週の練習をご覧ください。後述の通り、11月26日のカカガメマラソンに3名の選手を出場させるのですが、それ以外の選手=ほぼ全員が10月30日のナイロビで開催されるスタンダードチャータードマラソンに出場します。


 ですから、下記の練習はレース3週間前から2週間前になります。



月曜日

午前 - 18km低強度走- 男子 - (3:50 TO 4:00 PACE) 1時間12分

女子- (4:10 TO 4:20) 1時間19分

午後 - 10kmジョギング


火曜日

午前 – スピードワーク

男子 – ウォーミングアップ20分 + 600m x 15本 (平均1:41)


女子 -ウォーミングアップ20分 + 600m x 12本 (平均1:50)


午後 - 8kmジョギング


水曜日

午前- 18km低強度走 – 男子 - (3:50 TO 4:00 PACE) 1時間12分

女子 - (4:10 TO 4:20) 1時間19分

午後 - 10 kmジョギング


木曜日

午前 – 坂ダッシュ 120m x 12本

午後 - 15km低強度走


金曜日

午前 - 18km低強度走 男子 - (3:50 TO 4:00 PACE) 1時間12分

女子 - (4:10 TO 4:20) 1時間19分

午後 - 6kmジョギング


土曜日

午前- テンポ走 – 男子 20km – 1時間07分

テンポ走 – 女子 20km - 1 時間15分


女子カカガメマラソン組(ミルドレッド・ジェプケメイ、エドナ・ムクワナ、プリシラ・キプルト) - 38km – 2時間37分


日曜日

完全休養


 今週のスピードワークは600m15本だけです。それ以外にファルトレクも何もしていません。距離走はカットして20キロのテンポ走となっています。


 一時はファルトレクで9分速く走って3分レストを7セットなどもやっていたことを考えると、かなり特異性が下がったと言えます。


 正直に言うと、ライオンズの選手たちがどういう意図をもってこういう練習をやっているのかはよく分かりません。よく分かりませんが、こういうパターンは他のチームや選手の間でも往々にしてあります。


 それは何故か?


 それは調整の基本的な考え方を考えると分かります。


 調整とは練習を軽くしながら、これまで自分がかけてきたトレーニング刺激に最大限に適応することです。ですが、走力が低下してもいけません。ですから、ある程度の負荷はかけないといけません。


 そうなるとある程度の負荷もかけないといけません。でも、疲労も抜いていかないといけません。こうなった時に、あえて練習の特異度を下げるのも一つの手法なのです。何度も書いていますが、練習でもっともコスパの良い練習は中強度の持久走と200m5本です。これらの練習は最も故障やオーバートレーニングのリスクに対する練習の効果が高い練習です。


 逆の言い方をすると、そんなに疲れないということです。そして、これまで高強度な練習が続いていたのに、それをカットして中強度な持久走を適度に入れながら、低強度な持久走を入れていくと疲労が抜けていくのです。


 同様に、ファルトレクやショートインターバルについても同じことが言えます。追い込まずに、ある程度の負荷をかけることによって体に余裕を持たせることが可能になるのです。ここでのショートインターバルはレースが近づいてきて更にスピードを磨いて、フレッシュな状態を作っていくというのとも違います。


 これも一見正しそうに思える練習です。先ずは練習量を増やし、しっかりと走り込んでからレースが近づいてきたら、質を高めていくスピードをつけていくというやり方です。


 ただ、何度か試してみましたが、上手くいきませんでした。理由は二つあります。


 一つ目は、スピードを高めていこうと思えば、自動的にインターバルの本数を減らしたり、疾走の距離を短くしたり、休息を減らしたりすることになるのですが、そうすると特異性が下がります。


 最終的に重要なのは、そんな単純に質と量に分けられるようなものではなく特異性なのです。基礎が重要だと散々言いつつも、最終的にはその上に積み上げる特異性の方が重要です。ただ基礎が出来ていないと、レベルの高い特異的な練習も出来ないということです。


 そして、二つ目ですが、練習量を減らしても質を増やすと結局疲労が抜けません。寧ろ、疲労がたまってしまうことにもなりかねません。ですから、目標とするレースの前に量を減らしながら質を高めていくとかなり仕上がっていく感はあるのですが、質を求め過ぎると上手くいかず、リスクがある割にうまみの無い練習となってしまうのです。


 ただ、そういったやり方ではなく、質も上げずに特異度を落とすというイメージだと疲労を抜きながら自分の状態を維持することが出来るのです。600m15本を平均1分41秒はちょっとうちの選手たちにとっては早すぎるんじゃないかと言う気がしないでもないですが、基本的な考え方としては、そういう練習のやり方もありだということです。


 これまでやってきた練習とそう大差ないので大丈夫でしょう。


 ただ、これまでやったこともないペースの練習をレースまであと少しとなった時点でやると上手くいきません。単純に疲労は抜きたいけど、走力を落としたくもないから特異度を下げるのであって、レースが近づいてきて更なるスピードをつけようとするのが目的ではないのです。


 いや、それが目的であるべきではないと書いたほうが分かりやすいでしょう。


 同様のことが長い方にも言えます。


 私がハーフマラソンを63分09秒で走る一週間前に32キロを1キロ3分45秒ペースでやったという話は何度かさせて頂いていますが、別にこれもこの段階で持久力をつけようとかそんな話ではありません。


 ただ、このレースに向けて何か月間もコンスタントに同様の練習を入れてきたので、その能力を落としたくないから、最後にもう一回やっておいただけです。全く追い込まず、力まず、イメージとしては長時間走り続けて脚をほぐすようなイメージでこれまで何か月間もやってきたことをもう一回やったというそれだけのことです。


 レースからもっと時間がある時には、もっと積極的に後半上げていくような30キロ走もやりましたが、この段階ではそういう練習ではありません。


 最後に、このブログを読んでも何をやって良いのかよく分からないという方もいらっしゃると思います。そういう場合は、難しく考えずに400m15本から400m20本を1分から90秒の休息で繋いでハーフマラソンから5キロのレースペースくらいまでで実施して下さい。


 このペースならしっかりと刺激がかかり、走力の低下、スピードの低下は防げます。その一方で、かなり余裕をもって行える練習でしょう。考え方としては200m5本がコスパ最強と言っていることの延長です。それよりは、負荷は高いけれど、それまで6x2km/1kmの変化走や2キロ6本、3キロ5本などの練習をしていた人からすれば、負荷は格段に低いはずです。


 いずれにしても、重要なことは最後の4週間で新しく鍛えようと思わないことです。あくまでも、今までやってきたことに体が適応するのを待つようにしてください。


 それでは秋から冬のレースでの好結果、楽しみにしております。


追伸

 現在私も11月13日の和歌山ジャズマラソン(ハーフマラソン)、11月20日のジュビロ磐田マラソン(ハーフマラソン)に向けて準備をしているのですが、先日1回目の6x2km/1kmの変化走を6分10秒と3分15秒くらいで完了させ、なんとなくレース仕様に仕上がってきました。


 本当は同じ感覚で走って6分10秒が6分ちょうどになれば良いのですが、あとは疲労を抜いていって、体がそこまで適応してくれるかどうかです。


 最後は自分が今までやってきたことを信じて疲労を抜いていくしかない、本当にそう思います。無理やり6分10秒を6分ちょうどにしても上手くいかないですしね。あくまでも同じ感覚でというところがポイントになります。


長距離走、マラソンの為の栄養学
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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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